TOPICS

敷金・保証金の返還と原状回復義務の範囲

賃貸アパートやマンションを退去する際、預けていた敷金・保証金から原状回復費用として十数万円が控除された、あるいは敷金・保証金額が原状回復費用の金額を超えるとして、原状回復費用の不足額を請求されたという経験がある方は、少なくないのではないでしょうか。
今回は、そうした敷金・保証金の返還と原状回復費用に関するお話をしたいと思います。

【 敷金・保証金について 】

多くの人が賃貸借契約を締結する際に、「敷金」や「保証金」といった言葉を耳にしたことがあると思います。敷金や保証金を使い分けている不動産会社も存在しますが、基本的には同じ意味で使用されていることが多いです。以下では、「敷金」という名称で統一して説明します。
敷金とは、法律的には、「賃借人の賃貸人に対する賃料債務その他一切の賃貸借契約による債務を担保する目的で、賃借人から賃貸人に交付される金銭であって、賃貸借契約を終了する際に、賃貸人から賃借人に返還されるべきもの」と解されています。このように説明されると少し難しいですが、要は、賃料や原状回復義務(賃貸借契約が終了して退去する際に、部屋を入居時の状態に戻す義務)を担保するために、契約時に賃借人から賃貸人に一定のお金を預けておくということです。敷金は、担保として賃貸人に預けているだけですので、賃借人がきちんと家賃を払い、原状回復義務も果たしていれば、契約終了時に戻ってきます。一方で、家賃の滞納があった場合には、賃貸人は預かっていた敷金を滞納額に充当したうえで、残額があれば、それを賃借人に返還することになります。
なお、契約内容によっては、敷金・保証金との名称が使われていても、契約終了時に一部ないし全額の返還がなされない旨記載されているものもあります。そうした特約は、直ちに無効になるものではありませんが、事案によっては、無効となる場合もあります。

【 原状回復義務の範囲 】

原状回復の費用も敷金から充当される対象となっています。よくトラブルとなるのは、原状回復費用と称して敷金から多額のお金が引かれているというケースです。
その際に争点となるのが、賃借人はどこまでの範囲で原状回復義務を負うのか、ということです。簡単に言うと、賃借人は、部屋・店舗をどの程度、綺麗にして返せばよいのか、という問題です。
この点については、これまで法律上の明確な定めはありませんでしたが、令和2年4月から施行された改正民法(第621条)で原状回復義務の範囲が規定され、一定のルールが明確になりました。改正民法が適用されるのは、令和2年4月以降に新たに契約した賃貸借契約に限られますが、改正民法の規定は、これまでの判例法理や従来の慣例を踏まえて規定されたものですので、令和2年4月以前の契約におけるトラブルでも参考になります。
改正民法では、賃借人が部屋を借りた後に生じた損傷がある場合には賃借人がその損傷を回復する義務を負うとされていますが、通常損耗や経年変化は原状回復義務の対象とはならないことが明記されています。
通常損耗や経年変化の例としては、以下のようなものが想定されています。

・畳の裏返し、表替え(特に破損していないが、次の入居者確保のために行うもの)
・床の家具の設置跡
・テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気焼け)
・壁に貼ったポスターや絵画の跡
・壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)
・壁・天井の変色(日照などの自然現象によるもの)

一方で、通常損耗や経年変化にあたらないものとしては以下のようなものがあります。

・カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カビ
・引越作業等で生じた引っかきキズ
・賃借人が日常の清掃を怠ったための台所の油汚れ(使用後の手入れが悪く、ススや油が付着している場合)
・タバコ等のヤニ、臭い
・飼育ペットによる柱等のキズ、臭い

以上にあげたものは、一例にすぎず、また、契約で上記と異なる定め(特約)をすることも可能です。ただし、特約をした場合でも、一定の場合には特約そのものが無効となったり、効力が制限されることがあります。
敷金返還や原状回復費用についてお困りの方は、まずはお気軽にご相談ください。